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福岡高等裁判所那覇支部 昭和52年(行ケ)1号 判決 1977年12月23日

原告 古見用美 外五名

被告 沖繩県選挙管理委員会

主文

原告らの主たる請求および予備的請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一申立

一  原告ら

(一)  主たる申立

被告が、昭和五一年九月五日執行の竹富町長選挙の効力に関する原告らの審査請求に対し昭和五〇年一二月一一日なした請求棄却の裁決を取り消す。

右選挙を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  予備的申立

被告が、主たる申立記載の選挙において、その当選の効力に関する原告らの審査請求に対し昭和五一年一二月一一日なした請求棄却の裁決を取り消す。

右選挙における当選人瀬戸弘の当選を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二主張

一  原告ら(請求原因)

(一)  原告らは、昭和五一年九月五日執行された竹富町長選挙(以下本件選挙という)において選挙人であつた。

竹富町選挙管理委員会は、昭和五一年九月六日瀬戸弘候補の当選を決定したので、原告らは同年同月八日右委員会に対し本件選挙が無効である旨(予備的に瀬戸弘候補の当選が無効である旨)主張して異議申立をしたが、右委員会は、同年一〇月二日右申立を棄却した。そこで原告らは、右決定について同年同月一二日被告に対し審査請求をしたところ、被告は同年一二月一一日右審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年同月一五日裁決書を原告らに交付した。

(二)  しかし本件選挙には、次のとおりの選挙の規定の違反、および選挙の自由、公正を阻害する事由がある。

1 新城、古見(美原と田布を含む)、鳩間および船浮の各地域(以下本件各地域という)は、公職選挙法施行規則別表第一で不在者投票を行なうことができる地域として定められており、本件選挙において、左のとおりの不在者投票管理者代理、事務執行者の管理のもとで不在者投票が行なわれた。

地域  不在者投票管理者代理    事務執行者

新城 野底宗吉(竹富町東部出張所長) 安里真吉(区長)

古見 右に同じ            次呂久弘起(区長)

鳩間 安里幸雄(町民)        西原正吉(区長)

船浮 入川安盛(町選管委員)     井上文吉(区長)

公職選挙法(以下法という)四九条には「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行わせることができる」旨定められているところ、本件各地域における不在者投票は、不在者投票管理者の不在のまま、代理権限なき者をして不在者投票を執行せしめたもので、不在者投票管理者の管理する場所において行われたということはできない。

成程不在者投票管理者が「投票を記載する場所」に現在しなくとも、その管理のもとで行われればよいとは解されている。しかし不在者投票管理者の管理のもとで行われたといえるのは、不在者投票管理者の属する行政区域内の行政庁たる支所、出張所で、その指揮命令に属し、日頃選挙事務に従事してその執行手続に精通している職員たる書記長もしくは書記が補助執行に当り、不在者投票管理者と即座に連絡ができる態勢において行つた場合に限定されるべきである。

本件の場合には、先ず場所的に支所、出張所で行われたものではなく、不在者投票管理者の現在する石垣市とは連絡をとるのに長時間を要し、不在者投票管理者の意思が即座に伝達され得る場所とはとうていいえない。人的にも、右野底宗吉は竹富町東部出張所長、右安里幸雄は一町民、右入川安盛は竹富町選挙管理委員であつて、補助執行者にはなり得ず、そもそも右三名は投票管理者として任命されたものであつて、補助執行者としての任用手続はとられていない。

2 本件各地域における不在者投票では、事務執行者が立会人を兼ねており、これは無効であるから、法定の立会人なくして行われたことになる。

3 本件各地域における不在者投票は、その地域内に特に投票所を設け、投票管理者を各地域に赴かせて、投票時間を指定し、各地域の選挙人をまとめて投票させている。従つてその実態は通常の投票と変らず、投票日のみ繰り上げて投票させた繰上げ投票の執行にあたる。

とすると当然立会人を三人以上五人以内立会わせて公正を期すべきであつた。

更に本件選挙において、町の区域内に数投票区を設けていなかつたにも拘らず、数個の投票所を設けたことになるから、一投票区に二以上の投票所を設けた場合にあたる。

4 前記船浮地域における不在者投票は、全部不在者投票管理者の氏名が外封筒に記載されずに投票管理者に送致され、不受理にすべきであつたのに受理されている。

5 前記新城、古見、船浮の各地域における不在者投票は、特定候補者の支持者で推薦人でもある区長宅に不在者投票記載場所を設け、区長を不在者投票事務執行者に選任している。

前記古見地区における不在者投票は、その記載場所が設けられた区長宅に「必勝」の檄ポスターと選挙運動用ポスターが掲示されたまま行なわれ、選挙人がその撤去を求めたが、聞き入れられなかつた。

右区長宅に不在者投票記載場所を設けた等の事実は明らかに選挙の自由、公正を阻害しているものであるから、右各投票所における投票はすべて無効である。

6 本件選挙において竹富町役場で行なわれた不在者投票では、送致用封筒を使用せず、指定地域で使用する他の書類と一緒にして送致している。

7 本件選挙における竹富投票所の投票立会人は、全員瀬戸候補の支援者であり、うち一人は同候補の推薦人として、選挙運動用葉書にその名前を連ねたことがある。

右投票立会人に推薦人を指名した事実は選挙の自由、公正を阻害しているから、右投票所における投票は無効である。

(三)  右のとおり本件選挙には、選挙の管理執行に関する規定違反および選挙の自由、公正を阻害する事由が存し、これは選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるから、本件選挙は無効である。

(四)  仮に本件選挙が無効でないとしても、当選人瀬戸弘の当選は無効である。すなわち右当選人と落選人木原実との得票差は一〇票であるところ、本件選挙には前記(二)の2で述べたとおり事務執行者が立会人を兼ねた違法等による無効投票があり、右無効票は、潜在的無効投票として取扱われるべきではなく、当選人の得票から差引いて判断すべきであるから、その当選の効力に異動を及ぼし、当選決定は無効である。

二  被告(請求原因に対する認否)

(一)  請求原因事実(一)は認める。

(二)  同(二)ないし(四)は争う。

同(二)の1のうち本件各地域が公職選挙法施行規則別表第一で定められた不在者投票を行うことのできる地域であり、本件選挙において不在者投票を行つたこと、各「投票を記載する場所」に不在者投票管理者が現在しなかつたことは認めるが、原告ら主張の不在者投票管理者代理、事務執行者のもとで行われたとの点は否認する。

右不在者投票は、左のとおりの不在者投票管理者の事務補助者、投票立会人のもとで行われたものである。

地域 事務補助者 投票立会人

新城 野底宗吉  安里真吉

古見 右に同じ  次呂久弘起

鳩間 安里幸雄  西原正吉

船浮 入川安盛  仲立孫次郎

そもそも不在者投票において、不在者投票管理者が「投票を記載する場所」に現在しなくとも、その者の管理のもとに、その事務を補助する者を選任して不在者投票を執行せしめることは差支えない。本件選挙に際して本件各地域において行われた不在者投票も、不在者投票管理者の管理のもとで、その選任した事務補助者によつて適法に行われたものである。

事務補助を職員たる書記長もしくは書記に、「投票を記載する場所」を行政庁たる支所、出張所に限定しなければならない理由は存しない。

同(二)の2は否認する。すべて立会人が立会つて行なわれた。

同(二)の4については、不在者投票外封筒の管理者の氏名欄にその氏名の記載されていない投票があつたことは事実である。しかしそのことのみで、選挙人のした投票がすりかえられたり、あるいは選挙人の真意に反する投票が行なわれた疑があるとは断定できないから、その投票が無効であり、不受理にすべきであるという主張は理由がない。

同(四)の当選無効の主張に関しては、仮に無効投票があつたとしても、それらは潜在無効投票として、各候補者の得票から得票数に応じ、按分して差引かれるべきものであり、当選人の当落に異動を及ぼすものではない。

三  立証<省略>

理由

一  請求原因事実(一)は当事者間に争いがない。

二  原告らは、本件選挙には、選挙の管理執行に関する規定違反および選挙の自由、公正を阻害する事由が存し、これが選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることを理由として、本件選挙の無効を主張するので、判断する。

(一)  本件各地域において、不在者投票管理者の管理していない場所で不在者投票がなされたとの主張について

本件各地域が公職選挙法施行規則別表第一で不在者投票を行なうことができる地域として定められていて、本件選挙においても不在者投票が行われたことは当事者間に争いがなく、証人野底宗吉、同安里幸雄、同入川安盛、同宮良透の各証言によると本件選挙における不在者投票管理者は、竹富町選挙管理委員長の宮良透であつたこと、同人は本件各地域における不在者投票に在席せず、野底宗吉、安里幸雄、入川安盛を不在者投票事務を補助する臨時的職員に任命し、投票記載場所に鳩間地域は公民館を、他の地域は各区長宅を各指定したこと、野底宗吉は、新城地域において安里真吉を立会人として、古見地域において次呂久弘起を立会人として、安里幸雄は、鳩間地域において西原正吉(但し右西原が投票した際の立会人は友利三益)を立会人として、入川安盛は、船浮地域において仲立孫次郎を立会人として(但し右仲立が投票した際の立会人は井上文吉)、右各指定場所において不在者投票管理事務を執行したことが認められ、証人保久盛長正、同前津武の各証言および大舛久起本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

法四九条は、不在者投票の方法として「不在者投票管理者の管理する投票を記載する場所において行なわせることができる」旨定めているが、その趣旨は、不在者投票管理者の管理権が投票記載場所に、社会通念上時間的、場所的に及んでいることをいうのであり、不在者投票管理者が自ら投票記載場所に在席して直接監視している必要はないものと解すべきである。

ところで原告らは、不在者投票管理者の管理の下で行なわれたといえるには、先ず不在者投票管理者の属する行政区域内の行政庁たる支所、出張所で、その指揮命令に属する職員たる書記長もしくは書記が補助して執行しなければならないと主張する。しかし不在者投票記載場所を行政庁に限定しなければならない理由はない。特に法四九条四号の定める不在者投票は、人口稀簿で交通の便の悪い地域において、その地域の住民に対してできるだけ投票の機会と便益を与えるためのものであるところ、かかる地域には行政庁が設けられていないことが通例であろうから、記載場所を行政庁のみに限定するとその目的にも適わないことになる。また事務補助者については、確かに日頃選挙管理委員長の指揮、命令に服し、選挙関係事務に従事してそれに精通している選挙管理委員会の書記長もしくは書記(町村の場合は書記)が、不在者投票管理者を補助して事務を執行することが望ましいことはいうまでもない。しかしそれ以外の者を補助者として不在者投票事務を執行させることが、直ちに不在者投票管理者の管理のもとにおける不在者投票でなく、選挙の管理執行手続に関する規定に違反しているというわけにはいかない。けだし不在者投票は、数日にわたり、異なつた場所で連続して執行されることがあり、選挙管理委員会の書記のみでは処理できない場合が生じてくるであろうし、他方それ以外の者でも、不在者投票管理者の管理のもとで、適法に不在者投票事務を執行することはできるからである。

更に本件投票における本件各地域の不在者投票の記載場所が、管理者宮良透の居た石垣市(竹富町役場は、その町内ではなく、石垣市に設けられている)と離れた西表島およびその周辺の島に設けられていたので、管理者の管理権の行使に多少の不便があつたことは考えられる。しかし現在では石垣島から西表島へは、ホバークラフトによつて四〇分で到着できる(前記保久盛証言による)し、また疑義が生じた場合などの電話連絡は一五分以内で行なえる(前記野底、安里、入川の各証言による。前記保久盛証言中右認定に反する部分は措信しない)から、不在者投票事務に明るい者に補助事務を執行させ、それらの者からその都度事務処理の結果報告を受け、また必要があれば事前あるいは事務執行中でも適宜の指示を与えるなどすれば、管理者は十分にその管理権を行使できるものといわざるを得ない。

本件各地域における不在者投票も、管理者宮良透は、補助執行者として選挙事務について知識を有する者を任命し、事務処理中の疑義照会に回答し、終了後に結果報告を受けるなどして(前記野底、安里、入川、宮良各証言による)、不在者投票事務を完了している。

そうすると前記認定の事実に右各事情を総合して判断すると本件各地域における不在者投票は、不在者投票管理者宮良透の管理のもとに執行されたものと認めるのが相当である。

よつて原告らの右主張は理由がない。

(二)  立会人なくして不在者投票が行なわれたとの主張について

前記(一)で認定したとおり安里真吉(新城地域)、次呂久弘起(古見地域)、西原正吉(鳩間地域、但し西原が投票した際は友利三益)、仲立孫次郎(船浮地域但し仲立が投票した際は井上文吉)がそれぞれ立会人として不在者投票が行なわれ、同人らは事務執行者ではなかつたのであるから、原告らの右主張も理由がない。

(三)  立会人を三人以上五人以内立会わせるべきであり、また一投票区に二以上の投票所を設けたとの主張について不在者投票において、特定地域の選挙人につき、日時、場所を指定して投票させることは許されることであり、このような方法で不在者投票を執行しても、繰上げ投票と同視しなければならない理由はなく、立会人は一人で足りるものと解する。

また右のように数ケ所の「投票を記載する場所」を設けても二以上の投票所を設けた場合にあたるものでもない。

よつて原告らの右主張も理由がない。

(四)  船浮地域において不在者投票管理者の氏名が外封筒に記載されていなかつたとの主張について

船浮地域において不在者投票管理者の氏名が外封筒に記載されていなかつたことについて、一部かかる投票があつたということは被告も認めるところである(原告らは全投票がそうであつたと主張するが、それを認めるに足りる証拠はない)。

右事実は、公職選挙法施行令六〇条一項に違反しているとはいえる。しかし右違反は選挙人の意思に影響を及ぼすべきものではなく、選挙人の意思は正当に表示されており、また選挙人がした投票がすり代えられた疑があるとも到底云えない。とすると右規定違反は選挙の結果に異動を及ぼすおそれはないものというべきである。

(五)  区長宅に不在者投票記載場所を設け、特定候補者の支持者である区長を不在者投票事務執行者に選任したとの主張等について

原告ら主張の各地域において区長宅に不在者投票記載場所を設けたことは前記(一)で認定したとおりである。確かに区長とはいえ、一私人宅に投票記載場所を設けることは避けるべきではある。しかし前記野底、入川、宮良各証言によると右各地域には公民館などの公的施設がなく、止むを得ず、地域を代表する区長宅に投票記載場所を設けたことが認められる(右宮良証言によると公民館のあるところでは公民館を利用したことが認められる)から、そのことをもつて選挙の自由、公正を阻害する事由にあたるとは解されない。

原告らは、右各地域において区長が不在者投票事務執行者に選任されたと主張するが、それを認めるに足りる証拠はなく、右各地域における不在者投票は、前記(一)で認定したとおりの事務補助者によつて執行されたものである。

前記野底、入川、宮良各証言によると新城、古見地域では区長が立会人となり、船浮地域では事務補助者の手伝をしたことが認められるところ、同人らが特定候補を支持していたとしても(同人らが特定候補の推薦人であつたと認めるに足りる証拠はない)、そのことをもつて直ちに選挙の自由、公正を阻害する事由にあたるとは解されない。前記原告大舛の供述によつても従来から立会人は区長が務めていたことが認められる。

前記保久盛、野底各証言によると古見地域において投票記載場所であつた区長宅に「必勝」の檄ポスターが貼られていたことは認められる。但し瀬戸候補の選挙用ポスターも貼られていたとの事実は認められない。すなわち前記保久盛はその旨供述しているが、それは前記野底証言に照らして措信できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

とすると右檄ポスターの存在のみでは、選挙の自由、公正を阻害する事由とは認め難い。

(六)  送致用封筒を使用しなかつたとの主張について

原告らは、竹富町役場において行なわれた不在者投票では、送致用封筒を使用しないで送致したと主張しているが、本件全証拠によつても右事実を認めることはできない。

(七)  竹富投票所における投票に際し、瀬戸候補の支持者のみが立会人となつたとの主張について

前記前津(後記措信しない部分を除く)、宮良各証言を総合すると町選挙管理委員長は、字竹富の投票所における立会人の人選については特に配慮し、各立候補者の選挙事務所に意見を求めたこと、木原候補の側では上間某を推薦して来たが、後日同人が瀬戸候補の推薦人として選挙運動をしたので、申出を撤回する旨連絡があつたこと、代りの者を推薦してくれとの選挙管理委員長の申出に対しては代りの者を推薦せず、結局右上間でよろしいと了承したことが各認められ、前記前津証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右上間が立会人となつた経緯は右のとおりであるから、たとえ他の立会人が瀬戸候補の支持者であつたとしても、選挙人の自由意思に基く投票に何らかの影響を与えたとは考えられず、そのことをもつて選挙の自由、公正を阻害する事由と解することはできない。

以上のとおりであるから、本件選挙には、選挙の結果に異動を及ぼすおそれのある選挙の管理執行に関する規定違反および選挙の自由、公正を阻害する事由は何ら存しない。

従つて原告らの本件選挙が無効であるとの主張は理由がない。

三  原告らは、予備的に不在者投票事務執行者が立会人を兼ねた無効投票などが存するとして、瀬戸弘の当選は無効であると申し立てている。

しかし前記(二)のとおり、事務執行者が立会人を兼ねた事例はなく、他に無効投票があると認めるに足りる証拠もないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの主張は理由がない。

四  よつて原告らの主たる請求および予備的請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 門馬良夫 比嘉正幸 新城雅夫)

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